観測成果

遠方の星形成銀河でさぐる宇宙の泡構造

2017年1月30日 (ハワイ現地時間)

  広島大学の研究者を中心とする研究チームは、遠方宇宙で重い星形成銀河の割合が増加して行く姿を捉えました。約 50 億年前の遠方宇宙にある重い星形成銀河は、宇宙の大規模構造にそって存在していました。一方、約 30 億年前の比較的近い宇宙では、重い星形成銀河はほとんど見えません。星形成銀河が宇宙の物質分布をなぞる様子が変化したことを、宇宙の物質分布と銀河の分布を直接比べて明かした初めての例であり、他の独立な研究で明かされている銀河進化の様子ともよく一致しています。


図1

図1: 銀河団領域の拡大写真。HSC 画像 (赤色) と米国のキットピーク国立天文台にあるメイオール (Mayall) 望遠鏡 (口径4メートル) の画像を合成 (R-band を緑、V-band を青)。等高線は質量分布を表し、赤と青の丸はそれぞれ星形成をやめた銀河と星形成をしている銀河を表しています。宇宙の物質分布と銀河の分布を直接比べることで、宇宙の泡構造の進化に迫りました。(クレジット:広島大学/国立天文台)


  宇宙に点在する銀河の分布を観測すると、ほとんど何もないところや、逆に銀河がたくさん集まっているところがあります。この銀河の分布は「宇宙の泡構造」と呼ばれ、その中で多数の銀河が集中しているところは「銀河団」と呼ばれています。宇宙の泡構造の形成は、光で見ることのできない「暗黒物質 (ダークマター)」同士の重力相互作用によって支配されています。光で見ることのできる普通の物質 (バリオン) は暗黒物質のかたまりの中に落ちていき、そこで星を作ります。138 億年におよぶ宇宙の歴史で、暗黒物質のかたまりが重力で引き合った結果、銀河団が生まれます。宇宙の泡構造の中で銀河がどのような場所に存在するかを調べることは、私たちの宇宙構造形成に対する理解を確かめる上でとても重要なことです。

  すばる望遠鏡などのさまざまな望遠鏡により、深く大規模な観測が行われ、銀河が進化してきた様子が徐々に明らかにされてきました。ただし、その名の通り「暗黒」な暗黒物質は、直接観測することができません。見えている銀河を手掛かりに暗黒物質の分布を調べたり、遠方の銀河の形状が銀河団の重力によってゆがめられる「重力レンズ効果」をたよりに暗黒物質の分布を調べたりすることはできます。今回、研究グループは、光で見える銀河の分布と、重力レンズによって解き明かされた暗黒物質の分布のふたつの手がかりを組み合わせて、宇宙進化の中で重い星形成銀河がどのように進化して来たのかを解き明かすことに成功しました。

  銀河団など重いかたまりが存在するとレンズのように振る舞い、その背後にある銀河の像がゆがめられます。「弱重力レンズ」と呼ばれるこの現象は、暗黒物質の分布を明かす上で有用です。背景銀河の形から、手前にある暗黒物質分布を「写真」のように得ることができるのです。すばる望遠鏡は空の広い範囲の写真をシャープにおさめることが可能で、弱重力レンズ地図 (質量分布図) を作成する上で強力です。

  すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) 開発チームの内海洋輔さん (広島大学) らは、かに座にある「DLS 領域」と呼ばれる比較的広い天域 (4平方度) について約1時間の撮像観測を行い、質量分布図を作りました (図1)。地図中の等高線の山は手前に存在する銀河団に対応します。

  手前にある銀河の3次元分布を明らかにするためには、大型望遠鏡に搭載された分光器で銀河を一つ一つ調べる必要があります。宇宙が膨張していることから遠くの銀河ほど赤くなることが知られているので、銀河の赤さ (赤方偏移) を調べることで銀河までの距離を測定することができます。また、観測された天体が星形成をしている銀河か、それとも星形成をすでにやめてしまった銀河かも区別することができます。

  共同研究者のマーガレット・ゲラーさん (ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター) らのグループは、米国にある口径 6.5 メートルの MMT 望遠鏡に搭載された分光器 Hectospec を使い、1万 2000 個もの銀河の赤方偏移を測りました。Hectospec によるこの探査には、質量分布図に影響するほぼすべての銀河が含まれます。また銀河までの距離を正確に測定しているので、距離ごとに銀河分布の断層写真を作ることで異なる時代の宇宙を質量分布図と比べることもできます。

  銀河の3次元分布から期待される地図を質量分布図と比べることで、異なる方法で明かされた宇宙の泡構造がお互いにどれだけ似ているかを調べることができます (図2)。立派な構造があるところと、ほとんど構造がないところがあり、お互いによく似ていることがわかります。言い換えると手前の銀河によって描き出された質量分布は、弱重力レンズによって明かされた質量分布とよく一致しているということです。


図2

図2: 質量分布図 (左) と対応する銀河の分布 (右)。銀河分布図中で目立つ構造は左の質量分布図にも表れていて、構造がないところには何もありません。(クレジット:広島大学/国立天文台)


  さらに銀河の3次元分布を異なる赤方偏移 (=宇宙の異なる時代) に切り分けることで、時代ごとに銀河の分布が質量分布図とどれくらい似ているかどうかを調べることができます (図3)。驚くべきことに、遠方銀河団 (50 億光年先) のまわりの星形成銀河の分布が、近傍銀河団 (30 億光年先) のまわりの星形成銀河の分布に比べて、より質量分布図と一致していることがわかりました (図4)。言い換えると、遠方にいくと宇宙の泡構造に対する星形成銀河の寄与がより顕著になるという変化を捉えたことになります。今回の結果は、弱重力レンズ信号を使ってこの進化の様子を初めて示した結果となります。


図3

図3: 距離ごとにわけて銀河分布を調べた様子。地球 (観測者) から観測された銀河の3次元分布を描いています。赤い点は星形成をやめた銀河を表し、青い点は星形成中の銀河を表します。手前の囲まれた領域は 30 億光年先、奥の領域が 50 億光年先です。対応する銀河分布を横に表示しています。(クレジット:広島大学/国立天文台)



図4

図4: 30 億光年先 (上) と 50 億光年先 (下) の銀河団領域の拡大図。質量分布図 (左) と星形成をやめた銀河 (中央)、星形成銀河の分布 (右)。30 億光年先の銀河団を見ると対応する星形成銀河をほとんど見ることができませんが、50 億光年先の銀河団では対応する銀河が増えている様子がわかります。(クレジット:広島大学/国立天文台)


  本研究では星形成銀河を含む質量分布図に影響しうるすべての種類の銀河の3次元分布を質量分布図と比べました。そしてこれまでとは違う手法で銀河進化の様子を明らかにしました。研究チームは「遠方の宇宙では、今まで無視されてきた星形成銀河が重要な役割を果たすことが新たにわかりました。HSC で得られた質量分布図の中にはさらに遠方の宇宙における情報も含まれていると考えられます。現在開発中のすばる望遠鏡次世代超広視野多天体分光装置 PFS が完成すれば、より遠方の銀河を一度にたくさん分光することができます。HSC と PFS のデータを組み合わせることで、星形成活動が活発だった時代の暗黒物質と星形成銀河の様子の解明を目指します」と意気込んでいます。


  この研究成果は、2016年12月14日に発行された天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました (Utsumi et al. 2016, ApJ, 833, 156 "A Weak Lensing View of the Downsizing of Star-forming Galaxies")。また、この研究成果は、JSPS 科研費 (JP26800103, JP24103003) によるサポートを受けています。


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